二〇世紀の悪党列伝●目次  

東郷青児 戦後美術界のボス 篠原敏昭

はじめに
一 二科会の帝王
二 暴露された悪事
三 終戦直後の迅速な行動
四 老舗を乗っ取る
五 「軟派の不良」の画壇デビュー
六 フランスでの生活と経験
七 帰国後のカネと女
八 戦前の二科会のなかで
九 信州佐久の疎開地で
一〇 夢と野心
一一 ボス東郷の誕生
一二 功なり名を遂げる

「佐渡が島のぼんやり」から「富豪革命家」
岩崎革也宛北一輝書簡にみられる借金懇願の論理と心理 志村正昭

1 「富豪革命家」岩崎革也
2 幻の『社会革命原論』から「支那革命」あるいは佐渡金山へ
3 革命の「火蓋」を切るのは「富豪」か「学者」か?

ジョン・フィッツジェラルド・ケネディの神話 益岡 賢

一 生い立ち
二 直接の政治による犯罪
三 表象の政治による犯罪
四 おわりに

サラザール「偉大さ」に憑かれた独裁者 市之瀬敦

一 一九九八年リスボンにて
二 サラザール直前の時代
三 権力への階段
四 サラザリズモの功罪
五 国民の教育者サラザール
六 サラザリズモのレトリックとトリック
七 今もなおサラザールの影が……

【書斎の煌めき】呉人渡来製作説の波紋

藤田友治著『三角縁神獣鏡――その謎を解明する』 室伏志畔

【言葉の森散策】クレオールな旅立ち 第二回

海を越えたクレオール アメリカ東海岸 市之瀬敦

一 東海岸のカボ ベルデ人
二 エルネスティーナ号で航海士気分
三 アメリカのクレオール語

【古典の森散策】

バイブルの精神分析(その五) やすいゆたか

家族愛のトーラー
ひれ伏す束
七頭の雄牛と七つの穂
ヨセフ、エジプトの実権を握る
エジプトでの兄弟の再会
ヨセフのエジプト統治

【歴史知の小径】

イロニーの脅迫――福岡発―― 鯨岡勝成

一 博多大日蓮銅像
二 夢野久作『ドグラ マグラ』の理性批判
三 花田清輝のものぐさ日本論

【論争の思想史】

好太王碑改竄論争 藤田友治

【民俗の森散策】

馮依する神々の姿 ケーララ クルチェラ トライブの仮面と馮依儀札 川野美砂子

一 ケーララと「神の踊り」テイヤム
二 クルチェラ
三 クルチェラのテイヤム(導入)
四 テイヤムの神格と構成
五 テイヤムによる祝福
六 クルチェラのテイヤム



 昨年の暮れ、『毎日新聞』(一九九九年一二月二〇日付夕刊)紙上で、七五歳の吉本隆明氏と五一歳の加藤典洋氏が第二次世界大戦中の日本における「転向」をめぐって対談していました。吉本氏は、戦時中は「戦争肯定青年、天皇制肯定青年だった」とのことです。氏によれば、それは個人的な過去でなく時代現象として普通の民衆に共通の体験でした。でも、その考えはGHQ占領下では誤りとなったのです。善悪は相対的であると観念せよ、というのが時代の要求だったのでしょうか。それを強調するかのように、加藤氏はこう付言します。「一〇〇人のうち九〇人が誤る時には、その『誤り』の方に普遍性がある。そこがものを考える足場になる」。

 いま私は「転向」のことを縷々述べてみましたが、意図はむろん、それがこの本に関連するからです。例えば、戦時中は東条内閣の閣僚まで経験し巣鴨プリズンに収監されたものの戦後は平和憲法のもと首相に就任した岸信介氏は、転向したのでしょうか、しなかったのでしょうか。転向したのなら、彼の本質はどちらにあるのでしょうか。軍国主義ですか、平和主義ですか。転向しなかったのなら、戦後の彼だけが軍国主義のままなのですか、それとも戦後の日本自体が戦中と連続しているのですか。岸氏は二枚舌の悪党でしょうか、それとも民主的な政治家でしょうか。

 この本には、アメリカ大統領のJ・F・ケネディ、ポルトガル首相のサラザールが登場します。また『日本改造法案大綱』を書いた思想家の北一輝、画家の東郷青児が登場します。読者諸氏の多くは、おそらくケネディや東郷青児の悪口はあまり聞かないでしょう。反対に二・二六事件の首謀者として銃殺された北一輝は危険思想をもった悪党に括っていることでしょう。それに対し、スペインのフランコと並んでイベリアのファシストと称されるサラザールのことは、日本では高校の世界史でもほとんど教わらないようです。でももしケネディが、ベトナム戦争でアメリカに軍事協力すれば独立国家を保障するとしてタイの少数民族モン人を戦闘に動員して虐殺されるにまかせたのを知れば、彼を勇気と平和の象徴にしたまま二〇世紀を終わらせたくないと思うのは、大概の人に共通の素直な感情でしょう。政治的志操ではいざ知らず、それを踏み越えた生存的志操の次元では、真相を知らねばおさまりません。また、右翼・青年将校に危険思想を注入したとして一蹴された北一輝の場合は、明らかにその時代の「普遍性」に照らして悪党に括られたわけですから、そのあたりの事情をもう一度確認しておく必要があります。

(石塚正英)

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