グローバル経済とIT革命●目次 

第一部 「第三の道」論争の背景と論点

 第1章 アジア金融・通貨危機とユーロ市場の形成――「第三の道」論争の契機

 第2章 グローバル化と「第三の道」路線論争の展開

 

第二部 新しい欧州左翼と社会主義

 第1章 欧州左翼の収斂、継続性、改革  ドナルド・サッソン

 第2章 ゴーデズベルク綱領から「新しい中道」――ドイツにおける社会民主主義  トマス・マイヤー

 第3章 フランス左翼の複数主義と未来  ローラン・ブーヴェ/フレデリク・ミシェル

 第4章 過渡期にあるスウェーデン社会民主主義  アンネ・マリー・リンドグレン

 第5章 コンセンサスに基づく福祉政治――二一世紀を迎えるオランダ左翼  ヨス・デボイス

 第6章 新しい社会主義  リオネル・ジョスパン

資料篇 欧州左翼の社会・経済戦略

 氈@パリ宣言――グローバル化の挑戦  

     社会主義インター第二一回大会

  情報技術(IT)革命下における社会・経済戦略  

     完全雇用を目指すリスボン欧州首脳会議の決議



 一九八九年の「ベルリンの壁」の崩壊を契機として、二〇世紀社会主義の「二つの潮流」の「コミンテルン潮流」を代表するソ連・東欧の現存社会主義は崩壊した。崩壊を免れた中国、ベトナムなどの社会主義諸国も市場社会主義の路線を歩み、ソ連型社会主義が第三世界の近代化のモデル足り得ないことが明確に実証された。だが、もう一方の「社会主義インター」の潮流の主流を占める西欧社会民主主義は生き残った。それだけでなく、いまや欧州社会党の加盟諸党は、冷戦後の世界経済を支配する日・米・欧の三極構造の一翼を担う欧州連合(EU)一五カ国のうち、スペインを除く四大国を含む一二カ国で政権に参加し、EUの主導権を握っている。

 本書は西欧社会民主主義の主流であるイタリア左翼民主党、イギリス労働党、フランス社会党、ドイツ社民党(SPD)などが相次いで政権を獲得し、欧州連合の主導権を握った一九九六年以降に西欧左翼の間に生じたブレアや新労働党(ニューレーバー)の「第三の道」をめぐる論争を紹介している。

 この「第三の道」をめぐる西欧左翼の論争の中心は、グローバル化とIT革命をいかに評価し、それに対応するかという点にある。

 これには二つの契機があった。一つは一九九七年七月に、アジアのタイに発生した通貨・金融危機が瞬く間に東アジア全体からロシア、ラテン・アメリカにまで波及し、日米欧まで巻き込む世界経済危機の様相を呈したことである。この危機の引き金になった東アジアの通貨・金融危機には様々な要因が絡まっているにせよ、ヘッジ・ファンドに代表される国際的な投機資本が重要な役割を演じたことは否定できない事実である。

 したがって、『マルキシズム・ツデイ』誌のブレア批判の最大の論点もまたブレアの「第三の道」が投機的金融資本や多国籍企業に無制限な活動の場を開く経済グローバル化をまるで不可抗力な自然現象のようなものとして受け入れ、これに対決しようとしないという点にある。

 第二の契機は九九年一月の欧州通貨統合の発足による欧州統一資本市場の形成が起爆剤になって欧州企業が世界的な合併・買収(M&A)の主役に躍り出たことである。欧州企業による米企業買収・合併は二〇〇〇年一〜七月だけで二二〇〇億ドルに達し、同期間の米企業の欧州企業に対するそれの三三〇億ドルを大きく上回っている。

 この嵐のような経済グローバル化の波が、ドイツをはじめ労使共同決定制度の伝統の根強い欧州連合諸国の労使関係や福祉国家の基盤を揺るがし始めており、これにいかに対応するかが西欧社会民主主義にとって当面する最大の政治課題になっているのである。

 ブレアの「第三の道」が西欧社会民主主義内部の論争から始まって中南米諸国まで巻き込み、社会主義インター全体の論争にまで発展したことはこのような背景があったのである。

 社会主義インター第二一回大会の『パリ宣言』と『決議』は、このような経済グローバル化に対する社会民主主義の対応にたいする共通の認識を示したものといえよう。

 ドナルド・サッソンは、九七年に発刊した大著『社会主義の一〇〇年――二一世紀の西欧左翼』のエピローグで、「西欧では、過去一〇〇年の社会主義の主要な成果は資本主義の文明化(civilizinng of capitalism)にある」と述べ、さらに最大の問題は社会主義がグローバルな勢力になりうるか否かが、二一世紀にも変革の勢力であり続けるか否かの決定的な要因であると指摘している。

 グローバル化とIT革命に対する西欧社会民主主義の挑戦は、いま始まったばかりであり、今後幾多の困難や試練に直面するだろうが、我々がここから学ぶべき点は大きいと思う。

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