はじめに――「九九年体制」を克服するために
第一章 危機管理・有事法体制と憲法の危機
1 危機管理・有事体制国家への新展開
ポスト冷戦時代の国家危機管理/ 新ガイドライン関連法とは何か/拡大する政府行政機構の権限/骨ぬきにされる地方自治/危機管理・有事体制への総批判を
2 有事法制国家への道と憲法論争のゆくえ
憲法改悪を必然とする有事法制/憲法第九条をめぐる攻防/憲法改悪を狙う憲法調査委員会
第二章 戦前・戦後を貫く有事法制
1 有事法制の史的展開
明治憲法体制下の国家緊急権システム /一九三○年代の危機対処策/行政の軍事化をもたらす国家総動員法
2 戦後有事法制研究の実態
戦前・戦後を繋ぐ有事立法の特質/三矢研究を頂点とする非公式研究段階(第一段階)/有事法研究の公式化段階(第二段階)/
周辺事態法までの有事法研究段階(第三段階)/今後予測される有事法体制/本格化する新たな有事法制の実態
第三章 新ガイドライン関連法の成立過程
1 新ガイドライン関連法に隠された意図を探る
新ガイドライン問題の焦点と政局/ 周辺事態法の狙い/法成立前から始まっていた民間人・自治体の動員/動員の強制力/ACSA改正の意味
2 周辺事態法の不透明さ
平時からの全面的な動員/周辺事態法と国家総動員法/危機に晒される人権や財産権
3 平時からの軍事態勢をもくろむ新ガイドライン
アメリカ軍事戦略に組み込まれる日本/強化される情報交換と政策協議/安全保障概念の拡大解釈/「包括的メカニズム」の実態/「調整メカニズム」の危険な中身/
着々と進む有事法体制
第四章 総動員体制下の地方自治体・地域住民
1 肥大化する内閣行政権と地域総動員体制
内閣行政権の飛躍的拡大/外交・防衛・治安は国の専管事項か/高度中央集権体制への道/目白押しの〈地域総動員法〉
2 隠蔽される地域総動員体制の現実
第九条はどのように発動されるのか/「周辺事態安全確保法第九条の解説(案)」の意図/広がる地方自治体関係者の不安と動揺/地方自治体首長の権限は担保されているのか/アメリカ軍の協力要請を断れるのか/
日本政府の本音とは
第五章 誰のための総動員・有事立法なのか
――平山誠一・全日本海員組合教宣部長インタビューに応えて
総動員体制づくりをまねく「後方地域支援」活動
国家総動員体制下の船員徴用制
有事立法は必要なのか
総動員・有事立法関連資料
「自衛隊と基本的法理論」(一九五八年)/1「非常立法の本質」(一九六二年)/「昭和三八年年度統合防衛図上研究(三矢研究)」(一九六三年)/「国防会議基本計画本文(要旨)」(一九六四年)/「法制上、今後整備すべき事項についてーー研究要綱」(一九六六年)/「防衛庁における有事法制の研究について」(一九七八年)
おわりに
一九九九年五月に可決、成立した新ガイドライン関連法。なかでも周辺事態法(有事立法)は、周辺事態が発生したと認識された場合には、日本はいつでもアメリカ軍に協力するという形を踏みつつ、戦争に加担する体制を整えるものである。
米ソ冷戦構造のなかで、日本の政治・経済体制は、アメリカによってその安定と成長を保障されてきた。しかし、冷戦の終焉により、従来の体制は修正を余儀なくされる。
ソ連邦解体や中国・ベトナムなど、社会主義国の資本主義市場への参入という状況も含め、広大な市場の出現の、その取り仕切りを狙うアメリカ資本主義(多国籍企業化したアメリカ企業群)の要請を受けたアメリカ軍部は、過剰な軍事費負担を軽減しつつ、アメリカ資本主義の目的を達成する手段として日本との軍事同盟体制の強化を図る新たな戦略を打ちだした。それが新ガイドライン安保体制である。
しかし、ただ単にアメリカに服従しているわけではない。アメリカと同様に東アジアにおける日本籍の多国籍企業の経済的利益の保守が現実的な課題となっており、その限りにおいて日本は、アメリカの軍事力の位置づけと同質の認識をもつものである。
社会主義・共産主義体制などの「驚異」を支え棒として命脈を保ってきた戦後保守体制は、そのイデオロギーが無効化されていくことへの危機認識を深めた。その危機を克服すべく政府は、いま急ピッチで危機管理・有事法国家=「戦争国家」化への道を強行しようとしている。
周辺事態法に代表される有事法は、ここにきて、突如あらわれたものではない。朝鮮戦争を契機として有事立法や危機管理の研究が開始されている。三矢研究などに代表される研究の中味は、戦前のそれと同質の基本構造をもっており、国家総動員法の焼き直しにすぎない有事法研究も少なくない。
では、戦前=明治国家とは、どのような構造をもったものであったのか。文字どおり有事国家、「緊急権国家」として歩み続けた明治国家は、常に「外圧」の危機を設定し、その対応過程のなかで国内の有事体制化に奔走した。
本書では、明治国家における総動員体制の構築過程や国家総動員法を頂点とする有事法の実際を踏まえ、それがほとんど切れ目なく戦後にも持ち越され、国家総動員制の再起道が連綿として企画されてきた経緯を追う。
また、周辺事態法に代表される有事法制が新国家日本の外皮とすれば、内皮に相当するものが「中央省庁等改革基本法」「地方分権一括法」という二つの法律の「改正」に代表される国家機構それ自体の改造・改編を目的とした流れである。
近代国家が担うべき行政機能を整理縮小して、外交・防衛・治安を主要な管掌事項に限定し、福祉や医療などの国民生活に直接関連する行政機能は、財源の裏付けのないまま地方自治体に移管される。この結果予測されるのは、従来にまして強度な官僚専制国家の現出であり福祉の切り捨てなど、市民サービスの低下である。
このあらたな新国家体制で、地方自治体がどのように再定義されるのか。さらには、周辺事態法によって動員単位の対象とされる地方自治体や地方住民がどのように位置づけられるのか。
周辺事態法の「周辺事態」とは何かといった、根本的な問題も含め、上記のような、さまざまな法律・法令が次々と「改正」されていく過程を克明に追い、戦争国家化への警鐘を打ち鳴らす。