書評より(2001年1月-12月)

●[神奈川新聞 2001/12/17 読書]

野本三吉『生きる場からの発想』

「副題は『民衆史への回路』。二十代半ばで横浜市の小学校教師を辞職し、北海道の牧場、東京・山谷での日雇い労働、沖縄での自然生活と放浪を続け、三十代に横浜・寿町で市の生活相談員として日雇い労働者たちと共に生きた著者の生活記録の集成である。……そうした記録への情熱について、著者は『内からつきあげてくる表現への衝動のようなものが、ぼくの書くという行為の原点だ』とし、『頭で考えるのではなく、からだ全体で感じる世界を実感』し『人間の心の底に潜む原始心性といったものを…ぼくの納得のいくまで探り降りてみたい』と言う。」

●[朝日新聞 2001/11/18 読書]

宇井眞紀子『アイヌときどき日本人』

「『アイヌときどき日本人』という写真集の新しさは、まず東京都民として生きるアイヌの群像を提供しているところにある。工事現場で働くアイヌと、地下鉄で通勤するアイヌ。多摩川のほとり、電車の高架線の下でカムイへの祈りの儀式を行うアイヌ。『苛酷な同化』によって抑えられた文化の模様を取りもどそうとしながら、しかし都市の住民として現代の生活を営んでいる。近代史によって強いられた生活の多重性が、等身大に映り、顔と表情の動きとして現れてくる。……ここにいたるまでの一人一人の『近代史』を、見る人が知りたくなる。『現代』をめぐっての、一つの真実をつかんだ本だからこそ、イメージに触発されて、より詳細な物語を聞きたくなるのである。(リービ英雄=作家)」

●[北海道新聞 2001/11/18 ほん]

宇井眞紀子『アイヌときどき日本人』

「一九九二年から十年間に撮影した、三十六枚撮り七百本のフィルムから百四十枚を選んだ。伝統的な様式による結婚式に始まり、民族の文化・歴史を知らせる『レラ(風)の会』の活動、踊りや儀式の伝承風景など、アイヌ民族の誇りを持ち都会に暮らす人々の、生き生きとした表情が活写されている。」

●[東京新聞 2001/11/4 読書]

宇井眞紀子『アイヌときどき日本人』

「本書はアイヌの生活を追い続けてきた女性写真家による、主に東京やその近郊に暮らす彼らの姿を浮き彫りにした写真集。……『日本人』として生きる中で、アイヌ民族の伝統や文化を学び、自然との共生を現代に体現してゆこうとする老若男女たちの姿が読みとれる。」

●[ワールド・サッカー・マガジン 2001/11 新書案内]

市之瀬敦『ポルトガル・サッカー物語』

「どのようにしてポルトガル代表が強くなっていったか、また優れた技術力はどのようにして浸透していったのか、この流れを読み取ることができる1冊だ。著者独自の視点から語られるポルトガルの歴史的文化を堪能できる仕上がりになっている。」

●[琉球新聞・河北新報ほか 2001/10/28 書評]

田中道代『アメリカの中のアジア』

「『ビジブル・マイノリティー』という言葉が、最近、米国やカナダなど、雑多な人種が暮らしている社会で定着しつつある。直訳すれば『目に見える非主流派』といった意味だ。……本書はアジア系アメリカ人のルポを通して、こうしたビジブル・マイノリティーの悲哀を分かりやすく描いている。……
 平等という建前がある程度達成された社会も、日常のディテールをのぞけば、差別や偏見は根強く潜んでいる。本書はアメリカのルポだが、先進国に住む現代人が共有する課題として、最後にわが国の現状にも思いを致しているのが心強い。(岩田万里・ライター)」

●[朝日新聞 2001/10/25 東京版]

宇井眞紀子『アイヌときどき日本人』

「宇井さんは92年、自分の写真が掲載された雑誌で、ダム建設の話を書いたアイヌ民族の女性の文章を読んだのをきっかけに、北海道・二風谷のアイヌコタン(集落)を訪ねた。取材を進めるうちに首都圏に約5千人のアイヌ民族が暮らしていると聞き、首都圏の人たちにレンズを向け始めた。
 宇井さんは『アイヌの人々の優しさや温かさ、時に発せられる厳しいことばに支えられて撮影を続けてきた。今を生きる等身大の姿を伝えたかった』と話している。」

●[読売新聞 2001/10/21 書評]

田中道代『アメリカの中のアジア』

「アメリカの人口二億八千万、アジア系は千五十万。ニューヨークでは人口八百万のうち七十八万ち一割近いが、二百八十万の白人と比べれば少数派。アメリカで歓迎されるための要件らしい主流派への同化にがんばりすぎると、自分らしさをなくしてしまうのではないか。アイデンティティーを模索する悩みは深い。」

●[東京新聞 2001/10/21 書評]

田中道代『アメリカの中のアジア』

「十二年間、ニューヨークで暮らした経験を通して見つめたアジア系アメリカ人の現実。上昇志向の高い移民の子どもや独自の作品を発表してアーティストとしての地位を得ようと挑戦する人たちなどに密着、彼らの意見とその背景を探る。」

●[中国新聞 2001/10/18 書評]

宇井眞紀子『アイヌときどき日本人』

「宇井氏は一九九二年から北海道日高地方の二風谷でアイヌ民族の取材に関わり、その後、自分の足元の首都圏に住む若いアイヌとかかわる。
 ムックリ(口琴)やトンコリ(弦楽器)を奏でる人たち。民族衣装のファッションショーでさっそうと登場する人たち。今を生きる等身大のアイヌのすがすがしい姿を伝えられたら、というのが著者の思いだ。」

●[毎日新聞 2001/10/14 書評]

田中道代『アメリカの中のアジア』

「いま、アメリカの中のアジア人がどのように生きているのかを知るのは意味がある。この本はさまざまなアジア人の生きざまを一人ひとり具体的に紹介している。底辺で苦労しながら暮らしている人が多い。
 みな健気に生きているが、アメリカの、誰でもテロリストまでも受け入れる度量の広さによるものだ。しかし、報復を決定するトップにはアジア人はなかなか入っていけない。」

●[週刊サッカー・マガジン 2001/9/26 新書案内]

市之瀬敦『ポルトガル・サッカー物語』

「最近日本でも注目を集めるポルトガル・サッカーが一冊の本になりました。……ポルトガル社会学者である著者がその魅力を存分に語ります。エウゼビオ時代のオールド・ファンから、現在の『ゴールデン・エージ』のファンまで、楽しめる内容になっています。」

●[民族時報 2001/8/11 読書案内]

金栄鎬『現代韓国の社会運動』

「『韓国は本当に民主化したのか』。この発問は、長い間韓国の政治体制と社会(構造や運動)の変動に関心を持ちつづけてきた人たちだけでなく、例えば、マスコミが大きく取り上げた『落選運動』という斬新な運動――日本では見事に失敗した――に触発されて、ごく最近、隣国の政治と社会に関心を持ち始めた人たちにも共有されるものだろう。/本書は、この発問に、最良の回答をあたえてくれる労作である。」

●[イオ 2001/8 ブックス]

和仁廉夫『歴史教科書とナショナリズム』

「……『つくる会』の教科書を批判する図書も多く緊急出版されている。本書もそのひとつ。『つくる会』の教科書の問題点を、一つひとつ詳細に分析するのではなく、アジア諸国の反応、戦前・戦後の教科書の分析、教育とナショナリズムの関係など、『つくる会』のようなものがはびこるようになった歴史的、社会的背景を丹念におっているところが、本書の最大の特徴である。明治以来の教育現場で日本のナショナリズムがいかに有害な役割を果たしてきたのか、今の日本の大学でいかにアジア蔑視の教育がおこなわれ、学生たちがどのような影響を受けているのかなど、立体的に分析されている。」

●[エコノミスト 2001/5月8日]

姜英之『韓国経済 挫折と再挑戦』

「激震にみまわれた韓国経済の九〇年代を、在日の韓国人ジャーナリストとして見つめ続けてきた著者が分析し、韓国経済再生への道を探る。不正腐敗の追放を掲げた金泳三政権の誕生と経済改革、円高と技術革新でさらに拡大成長した財閥企業、グローバル化戦略のさなかのアジア通貨危機と、IMF体制下の苦悩。そして、金大中政権の誕生で果敢な財閥改革が行われた。度重なる危機の教訓は生かされるのか。」

●[図書新聞 2001/5月5日 インタビュー]

和仁廉夫『歴史教科書とナショナリズム』

●歴史教科書、閉じる日本人――『つくる会』教科書の検定合格をふまえ、進行する国家主義的再編と国民統合の趨勢を読む……以下リード文
「去る四月三日、『新しい歴史教科書をつくる会』の中学歴史・公民教科書が検定合格した。『自国中心史観』的記述に満ちたこの教科書の登場は、何を意味するのか。アジア諸国の反撥をよそに、狭隘化するナショナリズムと排他性に居直る日本人は、このままでよいのか。この教科書の問題点を衝く『歴史教科書とナショナリズム』を刊行した和仁廉夫氏に、話をうかがった。」

●[東京新聞 2001/4月29日]

姜英之『韓国経済 挫折と再挑戦』

「先進国経済の仲間入りを目前に、韓国経済は行きつ戻りつ苦しんでいる。……著者は、危機の克服から構造改革へ、政府、企業、国民が三位一体となって努力すれば第二の『漢江の奇跡』は可能と見る。現地取材やインタビューも多く、生きた韓国経済がよく理解できる。」

●[週刊読書人 2001/4月13日]

栗原幸夫『世紀を越える』

「前世紀をふりかえるとき、多くの人たちが、苦い気持ちで見るべきほどのことは見たという思いにかられる。著者も例外ではない。いや、社会主義に希望を託して生きてきた(いる)著者の場合は、幻滅はいっそう深いものがあるというべきだろう。……(しかし)二〇世紀の経験のなかに、『もしかしたら有りえたかもしれない他の可能性、つまりもうひとつの二〇世紀を発見すること』、著者が、多様な主題を論じた本書で一貫して試みるのは、そのことである。(太田昌国/編集者・民族問題研究者)」

●[社会新報 2001/3月14日]

和仁廉夫『歴史教科書とナショナリズム』

「昨年夏以来、本紙でその問題性を告発してきた『新しい歴史教科書をつくる会』(以下「つくる会」)の中学歴史・公民教科書(版元・扶桑社)の検定結果が、近く明らかになる。……本書は『つくる会』教科書が、自国優越主義や天皇制賛美、戦争の正当化など、字句の修正では片づかない誤った歴史認識・世界観に貫かれていることを明らかにするとともに、韓国・中国などアジア諸国の論調を紹介し、密室検定に阻まれて、国内ではあまり報道されてこなかった教科書問題に対する内外の温度差を明らかにする。」

●[民族時報 2001/2月11日号]

李泳禧『朝鮮半島の新ミレニアム』

「李泳禧教授は韓国を代表する知識人だ。彼に対する畏敬の念は、彼の思想と主張に共感する者のみならず、反対する人びとにも抱かれている。それを禁じえなくさせるのは、彼の『知識人としての生活』の厳しさだろう。……『知識人』が『知識』を自己の栄達の道具にだけ用い、その結果、彼らへの尊敬が消え去って久しい現在、知識を民衆の知恵のために提供する李教授のような知識人が、この時代にも存在していることに、ささやかな安どを覚えるだろう。」

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