| 詳報 | 中嶋聖雄・高橋武秀・小林英夫/編著 自動運転の現状と課題 社会評論社刊

自動運転は実現するのか。実現するとすれば、いつ、どのようなかたちをとるのだろうか。

自動運転は実現するのか。実現するとすれば、いつ、どのようなかたちをとるのだろうか。現在、世界の自動車メーカーが、その開発にしのぎを削っている。自動運転が可能となれば、それは自動車産業はもちろん、それを取り巻くICT産業やサービス産業においても、100年来の大変革となりうる。しかし、自動運転車はまだ構想・初期開発の段階で、その実用化には多くのハードルが存在する。技術上の問題はもちろんだが、事故の可能性がある時にAIがどのような判断を下すようにプログラムすべきか、また事故の責任帰属の問題─AIか人間か?─など、法的・社会倫理的にも解決すべき難題が山積している。

本書所収の論考は、自動運転の現状をできる限り正確に把握し、その実現の前に立ちはだかる課題を明確化し、さらにその課題解決に向けての提言を模索する目的で執筆されている。各章は、浦川・和迩の二つの章を除いて、2017年3月から2018年2月まで、計10回開催された、早稲田大学自動車部品産業研究所主催・2017年度「自動運転プロジェクト研究会」で発表された内容をもとにしている。

本書の研究対象である自動運転という事象自体が、様々な可能性・将来的発展の方向性を秘めたムービング・ターゲットであるので、編集方針としては、敢えて統一的な見解に収斂するように各章をアレンジするのでなく、なるべく多くの分野の専門家の考察を多元的に提示することをめざした。すなわち、自動運転という現象を、技術論のみ、あるいは産業論のみ、といった単一の視点から論じるのではなく、当該現象に関わる種々の領域を網羅するかたちで、総合的・有機的に把握することに努めている。社会システム全体(法律・行政や経済・産業・企業・経営、また技術的発展、さらには文化的領域を含む)と自動運転の関わりを論じるというアプローチである。自動運転問題への最終的な解を提示しているわけではないが、本書が自動運転研究の新たな展開の一助となることを願っている。

中嶋聖雄

(本書はしがき)


ISBN978-4-7845-1856-2 C0030
A5判並製・280頁 定価=本体2200円+税


目 次


はしがき


序章 自動運転と社会:社会学的分析の可能性

中嶋聖雄

はじめに
1. 科学技術社会論
(1)技術の社会的構成
(2)アクター・ネットワーク理論
(3)技術システム・アプローチ
2. 経済社会学・組織社会学
3. 移動研究

第1章 自動運転導入のための課題

高橋武秀

はじめに
(1)自動運転への社会的認識
(2)本章の課題
(3)本章の構成
1. 「自動運転」技術の概観
(1)移動体運行の概念化
(2)運送モード毎の「自動運転」導入状況
(3)交通安全要求への対応
2. 自動運転車のカテゴリー
(1)自動運転のカテゴリー化の実際
(2)日本型の自動運転の定義
3.  運転エラーの回避:自動運転車と人間によるエラーの回避法の違
4. 自動運転と通信の役割
5. 「通信」「情報のやりとり」の持つ脆弱性
6.  システム不具合の解消:市場リコールとハッキング対策
7. レベル3での運転責任の委譲問題
(1)人の操縦能力の劣化
(2)自動車での運転引き継ぎ問題
8.  自動車の構造と、自動運転の社会システムの組み立てへの影響
(1)交通ルールの必要性
(2)自動車運転ルールとその現場創発性
(3)交通ルールの現場創発性と自動運転車の運行が起こす混乱
9.  責任分配論:ADAS(高度運転支援車)とAutonomous Driving(自動運転車)での相違
10.自動運転車の実社会導入の手順
11.総括
おわりに

第2章 自動運転車への各社の取り組み

松島正秀

はじめに
1. 自動運転に向かう技術開発
2. 各社の自動運転実用化
(1)TESLA
(2)GM
(3)FORD
(4)Mercedes Benz
(5)VW/AUDI
(6)BMW
(7)日産
(8)トヨタ
(9)ホンダ
3. 運転システムの課題
(1)実用化の守備範囲と課題
(2)自動運転車の事故責任
(3)自動運転技術へのアプローチ
4. 自動運転がもたらす自動車産業への影響
(1)自動車産業の革新
(2)経営システムの変革
(3)新しい価値を創造する新興産業
5. 自動運転の実用化
(1)自動運転ビジネスの試行と社会への影響
(2)シェアリングビジネスの拡
まとめ

第3章  自動運転実用化に向けたOEM、自動車業界、産官学プロジェクトの取り組み

横山利夫

はじめに
1. 世の中の自動運転システムへの期待
2. 先進安全運転支援システムの現状
3. ホンダの自動運転Vision
4. 自動運転の定義
5. 自動運転技術の現状
(1)自車位置認識技術
i) Global Navigation Satellite System(GNSS)
ii) 慣性航法
iii) Simultaneous Localization and Mapping(SLAM)
(2)外界認識技術
(3)行動計画
i) 行動計画の役割
ii) 行動計画への入出力
iii) 行動計画の階層性
iv)ロボティクス技術の応用
(4)車両制御システム
(5)Human Machine Interface
(6)自動運転技術の高度化
(7)自動運転技術に関する協調領域の取り組み
(8)現在の国際道路交通協約
(9)現在の自動運転に関する国際基準調和の活動状況
(10)まとめ
おわりに

第4章 自動運転による自動車事故と民事責任

浦川道太郎

1. 自動車事故に関する民事責任の現状
(1) 民法の過失責任主義による事故責任と自動車事故責任の厳格化
(2) 我が国における自動車事故責任の厳格化:自賠法の制定と自動車事故に関する民事責任制度の概要
i)運行供用者
ii)運転者
iii)運行
iv)他人
v) 損害・損害賠償
vi)自動車損害賠償責任保険・任意の自動車保険
ⅶ)免責事由
ⅷ)政府保障事業
2. 自動運転における事故と民事責任
(1)自動運転のレベルと運転操作の主体
(2) システムによる自動車操縦が現行法制度に与える影響:前提的な法的課題
(3)自動運転が自賠法に基づく民事責任・保険制度に与える影響
(4)自動運転が物的損害事故の民事責任制度に与える影響
3. 自動運転における民事責任の方向性と今後の課題
(1)自動運転における人的損害に関する民事責任と今後の課題
(2)自動運転における物的損害に関する民事責任と今後の課題
おわりに

第5章  自動運転技術に係るレギュレーションの国際的なルールメーキング

和迩健二

はじめに
1. 日本における自動車の車両安全対策
2. 自動運転のルールメーキング
3. レギュレーションの国際調和について
4. WP29における自動運転に関するルールメーキング
5. 自動運転の段階的な導入と自動運転のレベル
おわりに─自動運転のめざすもの

第6章 中国における運転支援システム装備の現状と将来計画

小林英夫

はじめに
1. 自動運転研究の現状─中国を中心に
2. 中国政府の「青写真」
3. 中国での運転支援システム技術の展開
(1)中国自動車企業各社の運転支援システム装備の現状
(2)中国自動車企業各社の運転支援システム装備の将来計
i) 中国系企業の将来計画
ii) 日本企業の中国での自動運転将来計画
iii)欧米系企業の中国での自動運転将来計画
(3)中国新興企業の自動運転計画
4. BYDの自動運転システムへの取り組み
5. 中国での各社のモビリティサービスの現
(1)海馬汽車
(2)滴滴
(3)上海汽車
(4)江淮汽車
(5)東風汽車
(6)浙江吉利控股集団
(7)3社(重慶長安・一汽・東風)連合
おわりに─中国の運転支援システム問題の課題

第7章 [鼎談]自動運転問題の現状と課題

中嶋聖雄・高橋武秀・小林英夫

1. 自動運転に関する3つの論点
2. 人間の代替か、その先を行く安全技術か
3. 自動運転の法律問題
4. 諸外国ではどうなっているのか
5. AIはどこまで対処できるのか
6. 司令塔は必要か
7. 産官学連携の中の官の役割
8. サービス業としての自動車産業
9. 100年に一度の転換期
10.自動運転は不可避
11.現実は作り出されるもの

文献目録:自動運転車関連

三友仁志監修・石岡亜希子作成


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[著者略歴]


 

中嶋聖雄(なかじま・せいお)

(編著者、序章・鼎談担当)
香港生まれ。カリフォルニア大学バークレー校、社会学Ph.D.。
ハワイ大学マノア校社会学部助教授を経て、2014年より早稲田大学アジア太平洋研究科准教授、2016年より早稲田大学自動車部品産業研究所所長。論文として、「現代中国映画産業『場』の生成、構造と変動:グローバルな連繋とナショナルな相反」『グローバル・メディアとコミュニケーション』(2016年、原文英語)などがある。現在、現代中国映画産業に関する英文著書(『中国式の夢の工場:映画産業における制度変動、1978? 2017』)を執筆中。

 

高橋武秀(たかはし・たけひで)

(編著者、第1章・鼎談担当)
1953年生まれ、東京大学法学部第1類卒業。1976年通商産業省(現経済産業省)入省。2006年社団法人日本自動車部品工業会(20011年に一般社団法人日本自動車部品工業会に名称変更)専務理事・副会長に就任。同年早稲田大学自動車部品産業研究所客員研究員に就任、現在同研究所上席客員研究員兼早稲田大学客員教授。2016年株式会社日本商品清算機構に転籍、代表取締役社長。自動車技術会会員、人工知能学会会員、日本ホスピタリティ・マネジメント学会会員、日本地域政策学会会員、日本環境感染学会会員。

 

小林英夫(こばやし・ひでお)

(編著者、第6章・鼎談担当)
1943年生まれ、東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。駒澤大学経済学部教授、早稲田大学大学院アジア・太平洋研究科教授を経て、現在、早稲田大学名誉教授、早稲田大学自動車部品産業研究所顧問。主な著書に『産業空洞化の克服』(中公新書、2003年)、『アジア自動車市場の変化と日本企業の課題』(社会評論社、2010年)、共著に『アセアン統合の衝撃』(西村英俊・浦田秀次郎と共著、ビジネス社、2016年)、『ASEANの自動車産業』(西村英俊と共編、序章・第七章・第8章担当、勁草書房、2016年)ほか。

 

松島正秀(まつしま・まさひで)

(第2章担当)
1948年生まれ、東海大学工学部卒。
本田技研工業㈱取締役、㈱本田技術研究所取締役副社長、㈱ショーワ代表取締役社長。

 

横山利夫(よこやま・としお)

(第3章担当)
1979年㈱本田技研工業入社。㈱本田技術研究所に配属後、カーエレクトロニクス、主に自動車用電子燃料噴射システム(EFI)の研究開発に従事。和光基礎技術センターにて自動車用基礎研究に従事後、2000年Honda R&D Americas Vice president、2003年Honda Research Institute USA Presidentとしてコンピュータサイエンスの研究を推進。2005年㈱本田技術研究所 栃木研究所 上席研究員としてICT/ITS領域の研究開発を担当、2008年から未来交通システム研究室 室長。2012年から4輪開発センターITS/自動運転領域の研究開発を担当し現在に至る。2014年から日本自動車工業会 自動運転検討会主査。

 

浦川道太郎(うらかわ・みちたろう)

(第4章担当)
1946年生まれ、早稲田大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。早稲田大学法学部助手・専任講師・助教授・教授(この間、早稲田大学広報室長、早稲田大学図書館長、早稲田大学法科大学院長を務める)を経て、現在、早稲田大学名誉教授。弁護士法人・早稲田大学リーガル・クリニック所属弁護士。共著に『民法Ⅳ・債権各論[第3版補訂]』(藤岡康宏ほかと共著、有斐閣Sシリーズ、2009年)、共編著に『専門訴訟講座(4)医療訴訟』(民事法研究会、2008年)、翻訳書にE.ドイチュ/H.-J.アーレンス著 『ドイツ不法行為法』(日本評論社、2008年)など。論文・判例評釈等多数。

 

和迩健二(わに・けんじ)

(第5章担当)
1958年生まれ、京都大学大学院工学研究科修士課程修了。運輸省入省、国土交通省自動車局技術企画課国際業務室長(この間WP29において98年協定執行委員会副議長、議長)、技術政策課長、北陸信越運輸局長、自動車局次長などを経て、現在、一般社団法人日本自動車工業会常務理事。

 

三友仁志(みとも・ひとし)

(文献目録監修担当)
1956年神奈川県生まれ。筑波大学大学院社会工学研究科博士課程単位取得退学。博士(工学)。専修大学商学部助教授、教授を経て、2000年4月早稲田大学国際情報通信研究センター教授。2002年4月早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授、2009年4月より早稲田大学大学院アジア太平洋研究科研究科教授。2018年9月より同研究科長。International Telecommunications Society(ITS)副会長、公益財団法人情報通信学会前会長、早稲田大学デジタル・ソサエティ研究所長。代表的な著作にHitoshi Mitomo, Hidenori Fuke and Erik Bohlin, The Smart Revolution Towards the Sustainable Digital Society: Beyond the Era of Convergence, 386 pages, Edward Elgar, 2015.


石岡亜希子(いしおか・あきこ)

(文献目録担当)
1978年生まれ、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程研究指導終了退学。現在、早稲田大学自動車・部品産業研究所招聘研究員。主な著作に「制度と『機会所有権』:中国における農村出身者の都市流入に関する社会学的考察」(王春光著、園田茂人と共訳、『アジア研究』第55巻第2号、2009年)、『天津市定点観測調査(1997-2010)』(園田茂人と第2章共著、早稲田大学現代中国研究所、2010年)、「東アジアの社会福祉制度に満足していないのはだれか?――アジアバロメーター2006の分析から」(アジアバロメーターワークショップ&アジアンソシオロジーワークショップ2010論文集、2010年)(原文英語)、『障がい者の舞台芸術表現・鑑賞に関する実態調査報告書』(障がい者の舞台芸術表現・鑑賞に関する実態調査プロジェクトチームとして共編、日本財団パラリンピックサポートセンターパラリンピック研究会、2017年)。

二木正明(ふたぎ・まさあき)

(文献目録担当)
1953年生まれ、早稲田大学理工学部電気工学科卒業、ソニー株式会社勤務を経て、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程単位取得退学。現在早稲田大学自動車部品産業研究所招聘研究員。主な論文に『世界自動車部品企業の新興国市場展開の実情と特徴』(小林英夫・金英善・マーティン・シュレーダー編、柘植書房新社、2017年、第1章第3節担当)、「バスに乗り遅れた日本企業の現状と将来」『早稲田大学自動車部品産業研究所紀要18号』(2017年)、書評として、逢坂哲彌監修『自動運転』(『早稲田大学自動車部品産業研究所紀要19号』(2017年))、田中道昭著『2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と活路』(『早稲田大学自動車部品産業研究所紀要20号』(2018年))。


榎本勇太(えのもと・ゆうた)

(文献目録担当)
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了

投稿者: 社会評論社 サイト

社会評論社 SHAKAIHYORONSHA CO.,LTD.