| 詳報 | 吉留昭弘/著 陳独秀と中国革命史の再検討 社会評論社刊 2019年4月

中国共産党創立者の一人であった陳独秀の再評価を起点に、正統史観では闇に葬られてきた歴史の事実に光を当てて、民衆史としての中国革命史を再検討する。

四六判並製 296頁 定価=本体2,500円+税
ISBN978-4-7845-1571-4 C0030


著者より読者へ


十代の末、九州の片田舎でたまたまA・スメドレーの『偉大なる道』─朱徳の生涯とその時代─(岩波書店)に出会って以来、私は隣国の革命に強い関心をもつようになった。東方の大国の巨大な変化は、少年の身にもなにか動かし難い力がこの地を揺さぶっているかのごとく感じられたのである。

しかし、中国共産党の正統史観なるものが歴史の真実からは遠いことを知るのは、随分と経ってからのことだった。当分の間、私は毛沢東と中国共産党の正統史観の信奉者であった。それはプロ文革の初期まで続いた。

各時代の中国民衆の闘いを一本の糸に繋ぎ合わせることはできないのであろうか。このような途方もない願望に私をつき動かしたのは、次の事情による。

一つは、中国の未公開ドキュメンタリー映画『星火』『林昭の魂を探して』(胡橉監督、土屋昌明訳)との出会いである。友人に誘われて薄暗いテント小屋でのぞき観たこのドキュメンタリーは、私にとっては衝撃的だった。やっぱりこんな事件はあったんだ。

もう一つは、『陳独秀文集』全三巻(長堀祐造ほか訳)の刊行である。陳独秀の「全同志に与ふる書」は、中国第二次革命の真相を知るうえで欠くことのできない貴重な資料だが、さらに私を驚かせたのは、第三巻所収のかれの最晩年のいくつかの小論であった。そこには、ソビエト政権の変貌にかかわるいくつかの重要問題についてのかれの卓見がちりばめられていた。私のなかにあった何かもやもやとした気分が、ふっ切れたように感じた。

このような次第でできあがった本書だが、中国民衆史の一端の荒削りな素描に過ぎないことは言うまでもない。

(本書あとがき抜粋)


目 次


はじめに 陳独秀再評価問題にはじまる中国革命史の再検討

第一部

革命後一〇年間におけるソビエト政権の変質過程─「スターリン政治体制」への移行─

第一章 ソビエト政権の誕生と変質
1 『裏切られた革命』におけるトロツキーの述懐
2 革命政権の母胎─ソビエトとソビエト民主主義
3 革命政権の分裂
4 ボルシェビキ党内の左翼日和見主義的傾向とレーニン
5 レーニンのプロ独裁論におけるマルクス理論からの背離
6 ブランキスト的党組織論とレーニン
7 コミンテルンの二一ヶ条規約
8 グルジア問題にみる民族問題での偏向
9 「新経済政策」の遅延
10 労働者民主主義と「分派禁止令」
11 袋小路に陥ったボルシェビキ単独政権
第二章 ボルシェビキ政権の孤立化と党内矛盾の先鋭化
1 トロイカとレーニンの対立
2 レーニンの口述書簡
3 三つの問題でのレーニンとトロツキーの同盟
4 トロツキーの過渡期経済政策の特徴
5 転回点─第十二回党大会
第三章 トロツキー・党内反対派による党内闘争の継承
1 トロツキーの中央委員会への意見書と四六名の声明
2 新路線論争とトロツキー
3 トロツキー『十月の教訓』
4 トロイカの分裂と合同反対派の結成
5 中国革命問題の浮上とコミンテルンにおけるトロツキー最後の演説
6 スターリン派によるトロツキーら党内反対派の追放(一九二七年)
第四章 小 括

第二部

ソ連共産党・コミンテルン下での中国革命の指導路線

第五章 コミンテルン下の中国革命の指導路線
1 レーニンの戦略とスターリンの戦略
2 「国共合作」と国民党への尻尾主義
3 二段階革命論と永続革命論
4 スターリンの「一国社会主義」論と中国革命
5 中国革命にたいするトロツキーの言及
第六章 陳独秀『全同志に告げる書』にみる中国第二次革命の全貌
1 歴史の事実
2 マーリンからボロディンへ
3 五・三〇事件とプロレタリアートの台頭
4 蒋介石のクーデター
5 北伐と中国革命の二つの道
6 蒋介石軍にいかに対処するのか
7 上海コミューンの成立
8 上海大虐殺はどのように準備されたか
9 上海大虐殺後の武漢
10 スターリンの新しい訓令─極右から極左へ
11 下降期の戦術はいかにあるべきか
第七章 中国共産党・党内反対派の由来
1 王凡西『中国トロッキスト回想録』にみる中国共産党・党内反対派の由来
2 中国人留学生の悲劇─スターリン派による暴虐と粛清─

第三部

中国共産党のスターリン派と党内反対派への分裂

第八章 党内反対派から国際反対派へ
1 難航した党内反対派・四派の統一問題
2 陳独秀と彭述之の獄中での決裂
第九章 陳独秀最晩年の小論と『提言』
1 抗日戦争の問題─左翼教条主義批判
2 民主主義の問題
3 ボルシェビキ理論の欠陥とプロ独裁の問題
第十章 第二次革命敗北後・国内革命戦争期の中国共産党(一九二八年~三七年)
1 コミンテルンの極左方針と瞿秋日、季立三、王明指導部
2 富田事件と反革命粛清問題
3 極左路線の破綻と長征
第十一章 抗日統一戦線期の中国共産党(一九三七年~四五年)
1 抗日運動の高まりと「西安事変」
2 スターリンの「抗日統一戦線」論と毛沢東
3 「延安整風」と毛沢東による党支配権の確立
第十二章 日本帝国主義の敗北と国内革命戦争の再開(一九四五年八月~四九年一〇月)
1 東方における反帝闘争の偉大な勝利
2 国内革命戦争勝利の要因
3 スターリン主義党による政権の奪取─ヨーロッパ諸国共産党との相違点

第四部

社会主義への過渡期における中国共産党の路線・政策

第十三章 「胡風反革命集団」事件から「大躍進・人民公社」の時期まで (一九四九年十月~六二年)
1 「胡風反革命集団」事件─中国における文学・芸術運動への弾圧と毛沢東「文芸講話」路線
2 フルシチョフの「スターリン批判」とその影響、第八回党大会
3 「百花斉放・百家争鳴」(双百)と反右派闘争
4 「大躍進」・「人民公社」運動の展開─毛沢東路線の絶頂期と運動の破綻
第十四章 民衆の反抗─『星火』にみる民衆決起の闘い
1 中国農村の実態
2 一九五七年以後、変質する中国共産党
第十五章 プロレタリア文化大革命から天安門事件まで(一九六五年~八九年)
1 プロレタリア文化大革命と魏京生の自伝的エッセイ
2 紅衛兵運動の前段と後段
3 「パリ・コミューンを実行する」とはどういうことか
4 「コミューン」から「革命委員会」へ
5 もう一つの紅衛兵運動─「省無連」のコミューン運動─
6 八月の武器強奪、局地的国内戦争
7 紅衛兵運動への弾圧
8 林彪事件と激化する支配集団内の矛盾
9 天安門事件─民衆への牙をむいた鄧小平政権
第十六章 プロ文革の民衆的総括─魏京生の『探索』における提言

第五部

プロレタリア革命の新しい時代

第十七章 中国社会の巨大な変化
1 鄧小平による転換─「改革開放」と資本主義
2 「原始的蓄積」と農民層の分解
3 工業プロレタリアートの新たな創出
4 階級的矛盾と民族的矛盾、環境問題と増大する社会的矛盾
5 軍産共同体と帝国主義的対外膨張政策─「一帯一路」
6 エピローグ 中国革命の前途
補論 「いくつかの理論的問題」について
補論1 レーニンのプロレタリアート独裁論におけるマルクス理論からの背離について

1 『国家と革命』における「国家死滅の経済的基礎」の誤りについて
2 「ブルジョア的権利」とは何か
3 エンゲルスの手紙とマルクスとの共同提案
4 マルクスの手紙・『ゴータ綱領批判』─三つの問題
補論2 プロレタリア政党の組織路線の再検討について

1 「民主集中制」の本質は、中央集権主義である
2 中央集権主義路線と労働者民主主義の路線は、相異る二つの組織路線である
3 労働者民主主義の組織路線
4 プロレタリア政党はなぜ必要か
5 陳独秀の革命的遺志の継承する

・一九一七年から二七年までの中ソ両共産党の年表

・あとがき


著者略歴 吉留昭弘(よしどめ あきひろ)1937 年、鹿児島県さつま川内市に生まれる。立教大学大学院経済学研究科博士課程修了。

主な著書
『ソ連崩壊とマルクス主義─レーニン最後の闘争とその後』(図書出版)
「北京残照─佐藤博、宍戸均、鶴田倫世への追想」(『白鳥事件─偽りの冤罪』渡部富哉著、同時代社刊での特別インタビュー。)

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