|刊行情報| 人類進化の傷跡とジェンダーバイアス 家族の歴史的変容と未来への視座  横田幸子著

「本書の最大の魅力は、700万年にわたる人類進化史の上に立って、現在進行中のジェンダー諸問題に迫るという臨場感とスケールの大きさにあります。男女格差の淵源は、技術的・社会的・文化的な諸要因が絡みあい、歴史的にも極めて深いものがあります。これに、人類進化の視点、さらに女性の目線から、体系的かつダイナミックに切り込み、独自な処方箋まで提示されています。荒削りながらも、熱く壮大なドラマが奏でられ、オリジナル性に満ちた魅力的な学術書そして物語書となっています。」
十名直喜(名古屋学院大学名誉教授・SBI大学院大学客員教授)

「女性差別を克服できる道を拓いた画期的著作。対等な関係を生み出す場を創造しつつ、経済的・社会的圧力を、男女協働しつつ制御してゆく。この新しい道が、今、拓かれた。」
池上惇(京都大学名誉教授)


目 次 人類進化の傷跡とジェンダーバイアス ─ 家族の歴史的変容と未来への視座

まえがき
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図表一覧

序 章 人類進化の傷跡とジェンダーバイアス

1 本書の趣旨
1-1 世界的な新型コロナ渦─ジェンダー平等の後退と富裕層の資産倍増
1-2 本書で明らかにする論点と課題
2 本書の構成と課題
3 本書の特徴と魅力はなにか
3-1 「人類進化の傷跡」と「文化創造」の物語
3-2 両性の協働による男女格差の解消

第1章 家族と女性の在り方を読み解く─ 何が問題か

1 はじめに ─ ジェンダーギャップ指数にみる女性の立ち位置
1-1 ジェンダーギャップ指数上位10カ国の状況から見えるもの
1-2 ボーボワールの「第二の性」と西欧のフェミニズム
1-3 日本のジェンダーギャップ指数の低さの意味するもの
2 戦後日本における家族モデルと女性像の変遷 ─ 我が体験を踏まえて
2-1 包容力のある日本の前近代家族
2-2 専業主婦の歴史的位置─取り残された雑多な家事労働
2-3 日本の高度成長期の「近代家族」の形成と「女子教育」
2-4 子どもの発達に必要な前近代家族の包容力
2-5 なぜ女性は差別され続けるのか─女性差別の根源を求めて
3 人類進化にみる女性の立ち位置
3-1 「男は狩猟に、女は採集に」は自然発生したものではない
3-2 「進化の傷跡」と言う捉え方
─未熟児出産と難産&発情期の喪失と性的支配
3-3 人類の進化のステージにかかわる「アクア説」と「水障壁」
3-4 人類発祥の地アフリカ旅行で得たもの
4 家族進化論をめぐる論点とその変遷
4-1 日本の霊長類学の功績─原始乱婚説の否定
4-2 集団追い込み猟と家族の進化─エンゲルスの家族論に類似
4-3 ナヤール人の母系性社会と祖母仮説
4-4 モルガンの「血族婚家族」から読み取れる母系性子育て集団
5 おわりに ─ 女性と家族をめぐる生物的進化と社会的進化
5-1 人類進化は、生物的進化と社会的進化の共進
5-2 ボールデイングの言葉に励まされて─アマチュア研究者として

第2章 女性の視点で捉える人類進化の三段階
─進化の傷跡:女性が抱え込んだ難問

1 はじめに
1-1 人類進化の過程で、女性が抱え込んだ難問
1-2 本章の課題と論点
2 人類の直立二足歩行開始のステージ ─ 乾燥状況下の浸水地帯
2-1 直立二足歩行の起源に関する諸説
2-2 類人猿の腰椎におきた突然変異─「類人猿を直立させた小さな骨」
2-3 直立二足歩行せざるを得なかった生態条件
2-4 直立二足歩行する類人猿の出現
3 脳容量の増大はサヴァンナでの流早産防止の生物学的適応
3-1 脳容量の増大の開始に関わる諸説
3-2 新生児の脳容量の増大と未熟児出産
3-3 サヴァンナへの完全な適応とエレクトスの出アフリカ
4 炭酸塩質火山活動とエレクトスの生息環境の変化
4-1 体毛の損傷とメラニン色素の装着
4-2 地溝帯湖の含有成分の濃縮と体毛の損傷
4-3 新たな脳容量の増大―ハイデルベルゲンシスの出現
5 短毛化のステージ ─ アフリカ大地溝帯アルカリ湖周辺
5-1 ネアンデルタールと現生人類を分かつもの
5-2 現生人類誕生のステージ
5-3 現生人類への独自の道筋
5-4 母系性小集団の形成
6 現生人類のアフリカ大陸内での拡散
6-1 生存の必需品としての塩
6-2 現生人類のアフリカ内陸部への拡散
7 おわりに ─ 現生人類の出アフリカ

 

補 論 人類進化のバックグラウンド ─ 障壁の形成と類人猿の種分化

1 はじめに
1-1 障壁と種分化
1-2 本補論の課題と構成
2 直立二足歩行の前史
2-1 アフリカ大陸の地理的変動・気候変動と類人猿の種分化
3 直立二足歩行のステージ
3-1 初期人類の化石発掘地と降水状況概観
3-2 ニジェール・ベヌエライン
3-3 ナイル・ヴィクトリア・モヨワシ・ルクワ湖ライン
4 人類とチンパンジーの種分化
4-1 山地林と低地浸水林への分断
4-2 チンパンジーと人類の分岐の時期
4-3 直立二足歩行とナックル歩行について
5 おわりに ─ 初期人類の生息域の拡大

第3章 石器と手作業の進化から狩猟仮説を考える
─「男は狩猟に、女は採集に」は現生人類生来の習性ではない

1 はじめに
1-1 「男は狩猟に、女は採集に」という通説について
1-2 本章の課題と論点
2 オルドワン石器と堅果食・死肉アサリ
2-1 初期人類の生息環境のサヴァンナ化
2-2 初期人類の死肉アサリ・堅果食と石器
2-3 分かち合い行動の萌芽
2-4 エレクトスの出アフリカとナイルの回廊
3 アシューリアン石器と大型動物解体
3-1 肉食獣の狩りから学んだもの
3-2 オルドワン石器とアシューリアン石器の関係
3-3 死体解体から追い込み猟へ
4 現生人類のナイフ形石器に象徴される技術
4-1 ナイフ形石器を要求した背景─短毛化の進行と生存の危機
4-2 植物繊維の利用→衣食住確保のための技術の発達
4-3 積極的な狩りの開始
4-4 専門性を要する槍先形尖頭器製作技術─物々交換の開始
4-5 工場生産された痕跡を残す細石刃石器─社会的分業の開始
5 現生人類の狩猟技術が大型動物を絶滅させたのか
5-1 ヨーロッパの追い込み漁の痕跡
5-2 初期人類の大型動物解体の痕跡
6 おわりに ─ 性的分業は現生人類生来の習性ではない

第4章 人類家族の進化 ─ 母系性と父系性の葛藤

1 はじめに
1-1 家族論の変遷
1-2 現生類人猿の群れの多様性─共通祖先の素養をどう捉えるか
1-3 本章の課題と論点
2 人類進化過程における家族の変容 ─ 三つの飛躍
2-1 浸水状況下での直立二足歩行開始と核家族的行動
2-2 サヴァンナでの未熟児出産と父系性家族集団
2-3 アルカリ湖周辺での超未熟児出産と母系性家族集団
3 母系制家族小集団 ─ 狩漁採集生活段階の遊動単位
3-1 半定住・半遊動生活から定住生活へ
3-2 食物の貯蔵と分配─誰に分かち誰を拒絶するか
4 父系性相続への願望 ─ 家父長制家族の形成過程
4-1 集団追い込み猟から家畜化へ─プナルア婚家族の形成
4-2 農耕と牧畜の混合形態から遊牧へ─家父長制家族の形成
4-3 父系性の世界的波及─父系性移入と母系性の矛盾
5 モルガン→エンゲルスの提起した「集団婚」について
5-1 モルガンが類推した「血族婚家族」
5-2 エンゲルスの言う「本源的家族=集団婚」について
6 おわりに
6-1 資本制的生産様式が要求する近代的核家族と女性
6-2 母系的子育て小集団の現代的再構築

第5章 現生人類の日本列島渡来とサケ・マス漁
─社会的分業の先行:性別分業発生の必然性は存在しない

1 はじめに
1-1 日本の後期旧石器時代のサケ・マス漁の可能性
1-2 本章の課題と論点
2 現生人類の日本列島渡来と、在来初期人類との出会い
3 後期旧石器時代の人々の生活
3-1 日本の後期旧石器時代区分
3-2 汽水域での生活→汽水域を遡るサケ漁の開始〈第Ⅰ期〉
3-3 マスの溯上を追って─黒曜石との出会い〈第Ⅱ期〉
3-4 最寒冷期の生活と住まい─竪穴住居の起源〈第Ⅲ期〉
3-5 石器製作専門家小集団の出現と交換の開始〈第Ⅳ期〉
4 砂川遺跡に残された石片が語るもの
4-1 過去・現在・未来を繋ぐ実に計画的な石器製作
4-2 現生人類が必要とする遊動小集団の基本単位
4-3 ユニット小集団内に性別分業発生の必然性はない
5 北方細石刃文化の流入と土器の出現〈第Ⅴ期〉
5-1 大規模石器・石材製作地の出現と初期土器
5-2 極東地域サケ・マス文化圏での土器出現
6 交易活動を前提とする縄文文化
6-1 定住化がもたらしたもの
6-2 家族総出の生業を前提とする社会的分業の先行
6-3 アイヌにおける母系と父系の関わり方
7 おわりに

第6章 日本の性別役割分担意識の形成過程
─アンコンシャス・バイヤスがなぜ浮遊し続けるのか

1 はじめに
1-1 「一億総活躍」と女性
1-2 本章の課題と論点
2 日本における両性関係と性別分業
2-1 古来の日本における両性関係─兵農分離による「武士の妻」の出現
2-2 「夫は禄を食み、妻は奥を取り仕切る」─武家の性別分業
2-3 貝原益軒の女子教育の理念
2-4 益軒の理念を離れた「女大学」の成立─女児の手習い
3 西洋文明移入による「良妻賢母思想」の醸成
3-1 進歩的思想として移入された「西欧文明における女性像」
3-2 「女大学類似書」から読み取る、「良妻賢母思想」の醸成過程
4 明治民法と家父長制的家族制度
4-1 明治民法制定と女性
4-2 何故この期に家父長制的家族制度が必要とされたのか
4-3 現在の日本の婚姻制度と父性
5 日本では「性別役割分担意識」が何故根強いのか
5-1 「夫は外で稼ぎ、妻は家事労働する」形の性別分業の成立
5-2 専業主婦は一時的・過渡的存在形態
5-3 日本では「性別役割分担意識」が何故根強いのか
6 資本制システムがもたらす女性の人格の分断
6-1 近代的核家族のもとでの子育てと経済的自立の困難さ
6-2 高等教育期間と出産適齢期間の重複
7 おわりに ─ 新たな活路を切り開く力

第7章 男性と女性の人間的成長を目指して
─両性間の齟齬の克服と性暴力の根絶のために

1 はじめに
1-1 性暴力の根源─排卵の隠蔽を巡る両性間の齟齬
1-2 本章の課題と論点
2 女性の発情期の克服による両性の人間的成長
2-1 排卵の隠蔽が性的強制を惹起する必然性
2-2 浸水状況下での子どもの生存を守るために
2-3 発情期の克服と新たな両性関係の模索
3 魅力的な姿態とコミュニケーションの発達
3-1 モリスの言う、「裸のサル」の性行動の特徴
3-2 第二次性徴の発達とコミュニケーション
4 ヨーロッパ文明と性暴力 ─ 私的財産相続が要求する女性の占有
4-1 両性間の齟齬─「性的強制」から「性暴力」への進化
4-2 旧約聖書『創世記』に見られる「父性」の特定と女性
4-3 マサイ族の婚姻制度に見られる「父性」の特定と女性
4-4 牛飼いと羊飼い─男性の「性制御」の捉え方の違い
5 両性間の齟齬を埋めるために
5-1 両性の親愛関係形成の場の保障について
5-2 父系性家父長制下での性暴力
5-3 性暴力の進化
5-4 改めて、女性の発情期の喪失を現時点でどう捉えるか
6 おわりに

第8章 ジェンダーバイアスへの人類史的視座

1 はじめに
1-1 本章の課題と論点
1-2 ハラリの言う歴史の道筋を決めた三つの革命
1-3 「性差観の科学革命」とジェンダーバイアス
1-4 ママリア(乳房類)の一員としてのサピエンス(知恵ある人)
2 人類進化の過程と文化資本の継承
2-1 人類進化の原点─浸水状況下での直立二足歩行
2-2 乾燥したサヴァンナでの脳容量の増大と未熟児出産
2-3 短毛化の危機を乗り越えて現生人類へ
3 ハラリの言う「認知革命」について
3-1 「言語」と「虚構=架空の事物」についての捉え方
3-2 ボイドらによる問題提起─「人間革命」という捉え方を巡って
3-3 人類祖先の石器の変遷と伝播から検討する「認知革命」
3-4 現生人類は他人類種を滅亡させ、大型動物を絶滅させたのか
4 進化の傷跡と両性間の微妙な齟齬
4-1 セクシュアリティかジェンダーかという捉え方について
4-2 女性の排卵期の自覚喪失と男性の性的強制能力獲得
4-3 進化の傷跡を癒す─親愛関係に基く新たな両性関係の模索
5 農業革命と家父長制 ― 神話と女性
5-1 言語が作り出した虚構(宗教・神・国家……)と男女格差
5-2 なぜ家父長制はこのような「神話」を必要としたのか
5-3 キリスト教の全世界への波及と世界制覇
6 科学革命と女性 ― 資本主義が要求する近代的男女格差
6-1 ママリア(哺乳類)の一員としてのサピエンス(知恵ある人)
6-2 「性の補完性」というイデオロギーの持つ歴史的意味
7 おわりに ─ ジェンダーバイアスの進化

終 章 両性の平等な協働が育む家族の未来

1 資本主義がもたらした光と影
2 子育て文化資本の継承と獲得に向けて
3 コロナ禍が露呈する核家族の諸問題
4 資本主義がもたらす新たな可能性 ─ 家族共同体の現代的再現
5 両性関係の平等と協働が紡ぎ出す未来への視座
─ 進化の傷跡を癒し男女格差をなくす力のダイナミズム

あとがき
参考文献一覧
索引

 

横田幸子(よこた ゆきこ)
1944年1月  旧満州国新京特別市生まれ
1970年    京都大学理学部化学科中退
1980年 4月  松山市学童体育指導員(2001年3月退職)
2012年〜現在 通称「京都市民大学院」研究員
2019年〜現在 通称「働学研」会員

2022年7月29日刊
人類進化の傷跡とジェンダーバイアス : 家族の歴史的変容と未来への視座
横田幸子
定価=本体2500円+税 ISBN978-4-7845-1594-3 A5判並製312頁


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投稿者: 社会評論社 サイト

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