|刊行情報| 甦るマルクス 「晩期マルクス」とコミュニタリアニズム、そして宮澤賢治  大内秀明/著  

前作『日本におけるコミュニタリアニズムと宇野理論』に、宇野弘蔵「社会的労働協同体」論考を追加、「マルクス―モリス―宮澤賢治―宇野弘蔵」という、大内秀明が遺書のつもりで書いた大内コミュニタリアニズム論。

 

——序(抜粋)——

序 「晩期マルクス」とパリ・コンミュン

「終活三部作」として、すでに第一作『日本におけるコミュニタリアニズムと宇野理論』を上梓し、それに続く本書は第二作である。さらに、前著『日本におけるコミュニタリアニズムと宇野理論』は、コミュニタリアニズムの流れを探り、その流れを宮澤賢治の「農民芸術論」と宇野理論の三段階論に見たのであるが、いわば「三部作」の「総論」に当たるものであった。本書第二作は、いわば「理論編」として、「晩期マルクス」による『資本論』の理論的発展とともに、「近代デザイナーの父」と呼ばれるW・モリス達のコミュニタリアニズムとの接点を明らかにするよう心掛けた。

「総論」と「理論」のため、両者に重複の部分が目立つが、コミュニタリアニズム(共同体社会主義)がコミュニズム(共産主義)の発展のタームとして未定着であるため、説明を繰り返した部分が多い。しかし、前著でも説明の通り、コミュニズムが「所有論」的アプローチにとどまり、国有化など公有化の概念が強く、とくにエンゲルスの「プロレタリア独裁」とも結びついて、「マルクス・レーニン主義」のドグマを強めてきた。労働力の社会的再生産の場としての「家庭、家族」、自然環境など、共同体コミュニティの見地は希薄だった。むしろ「家族」に、私有財産や階級対立の基礎を置く考え方も強かった。そうした考え方に対して、「晩期マルクス」は超歴史的・歴史貫通的な共同体に基礎を置くコミュニタリアニズムに接近したのだ。その点で、ともにロンドンの生活者として、純粋資本主義の抽象の場を共有したW・モリス達との接点に着目せざるを得ないと思う。

大内秀明


目次

序 「晩期マルクス」とパリ・コンミュン
補章1 「プロレタリア独裁」とマルクス・エンゲルス問題
補章2 パリ・コンミュン150年:「晩期マルクス」とエンゲルス

第一章 晩期マルクスとコミュニタリアニズム(共同体社会主義)

第二章 E・B・バックス『現代思潮の指導者たち、第23回―カール・マルクス』

第三章 コミュニタリアニズムの経済学
宇野理論と『資本論』の対話① 純粋資本主義の抽象について
宇野理論と『資本論』の対話② 「エコノミーとエコロジー」
宇野理論と『資本論』の対話③ 「貨幣の資本への転化」
宇野理論と『資本論』の対話④ 「経済法則」と「経済原則」
宇野理論と『資本論』の対話⑤ 労働力商品の矛盾と「共同体」
宇野理論と『資本論』の対話⑥ 「三つの法則」をめぐって
宇野理論と『資本論』の対話⑦ 「晩期マルクス」と宇野理論の位置づけ

第四章 古典を読み直す: マルクス・レーニン主義からの脱却
第一節 脱マルクス・エンゲルス『共産党宣言』
第二節 ソ連崩壊とレーニン『国家と革命』批判
第三節 エンゲルス『空想から科学へ』批判としてのW・モリス、E・B・バックス『社会主義』

第五章 「社会的労働協同体」について
第一節 「労働者協同組合法」と労働力商品化の止揚
第二節 「労働者協同組合法」の制定と「社会的労働協同体」の概念

 

補論 東北・土に生きるコミュニタリアン宮澤賢治 
「新たな時代のマルクスよ」宮澤賢治

第一章 自然豊国・東北と宮澤賢治

第二章 宮澤賢治と高橋秀松・二人の友情と「産業組合」
補章1 「勝山酒造〈献〉世界チャンピオン、宮澤賢治も喜んでいる!」

第三章 宮澤賢治「ポラーノの広場」の産業組合――羅須地人協会とイーハトーヴォ
補章2 賢治のレーニン『国家と革命』批判

第四章 賢治の「西域幻想」――日本列島の地政学
補章3 賢治と「シルクロード」――日本列島の地政学

第五章 コロナ危機と新「日本列島改造論」――宮澤賢治の地政学に学ぶ
補章4 「風の又三郎」から仙台・羅須地人協会へ

研究ノート・時代を読み解く
1 宮澤賢治の地政学と現代中国
2 宮澤賢治は右翼なのか?左翼なのか?
3 ウクライナ危機と資本主義の基本矛盾「少子化社会」
4 労働力の再生産と家庭・家族
5 ウクライナ危機・賢治とユーラシア大陸
6 ウクライナ戦争と宮澤賢治
7 「揺らぐ資本主義」から「新しい資本主義」
8 資本主義の体制的危機と基本矛盾について

おわりに


著者 大内秀明 おおうちひであき 1932 年東京生まれ。東京大学経済学部・同大学院、経済学博士。東北大学名誉教授、 仙台・羅須他人協会代表。『価値論の形成』東京大学出版会、『恐慌論の形成』日本評論社、 『賢治とモリスの環境芸術』編著、時潮社、『ウィリアム・モリスのマルクス主義』平凡社、『自然 エネルギーのソーシャルデザイン』鹿島出版会など。

2022年10月3日刊
甦るマルクス 「晩期マルクス」とコミュニタリアニズム、そして宮澤賢治
大内秀明/著
定価=本体2500円+税 ISBN978-4-7845-1893-7 A5判上製312頁

 

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