国家を嫉妬させた映画監督 ─鈴木義昭・著『日活ロマンポルノ異聞』

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およそ10年前に一人の映画監督・山口清一郎氏が静かにこの世を去りました。デビュー作が上映されるや「猥褻容疑」で摘発、起訴され、長く裁判と闘い、映画とともに人生を貫いた山口監督へのインタビュー、裁判記録をまとめた鈴木義昭・著『日活ロマンポルノ異聞 国家を嫉妬させた映画監督・山口清一郎』(2008年刊)をご紹介します。


(本書 「はじめに 性の思想と性的映画の時代」より抄録)

取材をはじめてすぐ、白川さんに山口清一郎監督が亡くなったことを話した。「ワアッー、知らなかった」と、大変驚かれた様子だった。それは、想像以上のものだった。おそらく、混沌とした日活撮影所の中で「ロマンポルノ」という共通の現場を闘い抜いた同志への連帯感と懐かしさのようなものがあったのだろう。さらに、続けて彼女は言った。

「なぜか、私の作品が一個も摘発されなかったのは不思議だよね」

そう、それは確かに不思議だった……。

日活ロマンポルノ「摘発」から「起訴」「裁判」に至る過程は後述するが、いったい、なぜ、それらの映画が摘発されねばならなかったのかは、「無罪」になった今もって不明である。微細に検証すれば、摘発する側の何かしらの理由でもあろうが、少なくとも「裁判」の法廷でそれが明らかになったとは言いがたい。足かけ八年間にもおよぶ日活ロマンポルノ裁判のうち、後半のほぼ五年間に通い続けた自分としても、理解に苦しむ。だから「無罪」なのか─。それでは、あまりにもバカバカしい話ではないか。

山口清一郎は、監督作品『ラブ・ハンター 恋の狩人』を封切り上映中「猥褻容疑」で警視庁により摘発、押収された。一九七二年、上映最終日の一月二十八日のことである。同年九月に起訴され、裁判は七二年六月から始まる。山口清一郎の監督作品が、先行する他の日活ロマンポルノや同時期の他社作品などと比べて、特別に性表現が過激だったとも思えない。当時、次々に摘発された「四作品」は「たまたま摘発された」ということになるのかも知れない。警視庁はその後も「たまたま」(?)日活ロマンポルノを摘発している。しかし、「たまたま」で「猥褻容疑」をかけられて、山口のように「刑事裁判」の被告にまでされたのではたまらない。やはり、受難といわざるをえまい。

「つまり、自然なる性が、余りにも豊かであると国家が嫉妬します」

真冬の東京地裁、法廷で山口清一郎は、確かにこう切り出した。

(鈴木義昭)


目次

はじめに 性の思想と性的映画の時代 ─国家を嫉妬させる映画

インタビュー■山口清一郎の軌跡
1 
神代辰巳の死1
2 神代辰巳の死2
3 大島と丸山眞男
4 魔窟としての撮影所
5 大和屋竺という怪人1
6 大和屋竺という怪人2
7 魔窟のゆらぎ
8 ロマンポルノ前夜1
9 ロマンポルノ前夜2
10 ポルノ工場操業開始
11 「ラブ・ハンター 恋の狩人」
12 ポルノ裁判始末1
13 ポルノ裁判始末2
14 「恋の狩人・欲望」
15 撮影所という場所
16 映画史の中のロマンポルノ

検証■日活ロマンポルノ異聞
1 「愛と希望の街」の彼方に
2 日活ヌーヴェル・ヴァーグ
3 一九七二年という年
4 伝説の女優・田中真理
5 日活ポルノ裁判の焦点
6 「恋の狩人・淫殺」
7 「北村透谷・わが冬の歌」
8 「砂漠の冥想」

採録●「ワイセツ講座」
「ワイセツ講座講演」について
山口清一郎講演 「日活ポルノ裁判を越えて」

「その後の山口清一郎」
布村建さんに聞く

コラム・資料
初期のロマンポルノ作品
『ラブ・ハンター 恋の狩人』
『北村透谷・わが冬の歌』
日活ロマンポルノ●事件〜裁判


日活ロマンポルノ異聞
国家を嫉妬させた映画監督・山口清一郎

鈴木義昭/著

四六判並製・224頁 定価=本体1,800円+税

1972年、性の思想を問う日活ポルノ裁判。
日活ロマンポルノは国家を嫉妬させたのか?
猥褻とは、映画とは何か?

孤高の監督が遺したインタビューから、
70 年代の秘められた映画史に迫る!
「ワイセツ講座」ここに開講。

(すずき・よしあき)1957年東京都台東区生まれ。高校卒業後、映画館のモギリなどを経て、フリーランスのライター&編集者。現在も、ルポライター&映画史研究家として、芸能・人物ルポ、映画史研究などで、精力的に執筆活動を展開中。著作『「世界のクロサワ」をプロデュースした男 本木荘二郎』(山川出版社)『若松孝二 性と暴力の革命』(現代書館)ほか多数。

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投稿者: 社会評論社 特設サイト 目録準備室

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