|刊行情報| 福田善之の世界  井上理惠/編著

劇作をし、演出をし、
俳優教育もし、小説も書く、
劇作家・福田善之を丸ごと捉えられる最初の本にしよう——。

福田善之は東京下町の〈株取引〉の場、日本橋という日本経済の中心地で生まれ育った(1931年)。国の金が動く場所で一儲けしようと集まる人々や大衆文化・芸能に触れて子供時代を過ごした。つまり圧倒的に量の多い階層の人々〈PEOPLE〉─〈大衆〉が周りに居たのだ。そして多感な時代の始まりに、麻布中学という明治半ばに創設された「自由闊達・自主自立の校風」を持つ私立中学に入学する。ここで福田は大衆文化・芸能とはいささか異なる〈知性〉豊富な文化に触れる。読書と創作─夏目漱石の小説と〈芝居・演劇〉である。東大に入り哲学・思想を裡に取り込む。こうした生きる場の成長の歴史が、福田の劇世界を形成していくことになった。

多くの戯曲の中から数作を選択したが、その中心となる鍵は、福田が演劇世界で目指した構成の〈新しさ〉登場の必然であった。同時にそこに内包された〈自由と変革の思想〉にも目を向けた。この理解の下に第一部の福田善之論を進め、戯曲を分析した。

(あとがき抜粋)


目次

第一部 20世紀の福田善之

〈ドラマ〉への挑戦 ──「富士山麓」から「漱石の戀」まで
 井上理惠

Ⅰ はじまり
家族のこと/異なる世界との出会い/芸能・思想・党

Ⅱ 劇作デビュー「富士山麓」
戯曲第一作/「富士山麓」/第一作で背負ったもの ── 学生から社会へ

Ⅲ 「長い墓標の列」
東大卒業・就職・退職・岡倉士朗/「長い墓標の列」

Ⅳ 「記録№1」と「遠くまで行くんだ」
岡倉の死・セゾーノの会・安保デモ/「記録№1」/「遠くまで行くんだ」

Ⅴ 劇世界への飛翔「真田風雲録」「オッペケペ」「魔女伝説」──フィクションが「定説」を崩せるか!
「真田風雲録」/「オッペケペ」/「魔女伝説」

Ⅵ 新たな世界へ〈ミュージカル〉
演劇世界の転換 ── 音楽の存在/七〇年代から八〇年代へ/バリーの「ピーター・パン」/日本初演ミュージカル「ピーター・パン」の演出

Ⅶ 「漱石の戀」
教育/漱石/「うつつ」/「夢」/「うつつ」


第二部 20世紀から21世紀へ

第一章  歴史証言による問いかけ ─「ワーグナー家の女」「新・ワーグナー家の女」を読む
 安宅りさ子

Ⅰ 「ワーグナー家の女」(一九九九年)
歴史の仮説/女性たちの証言/政治と芸術

Ⅱ 「新・ワーグナー家の女」(二〇〇四年)
母と娘の対決/ジークフリートの遺言

Ⅲ 「新・ワーグナー家の女」(リーディング公演用台本 二〇一五年)
ナレーター/コロス

 

第二章  『草莾無頼なり』── 歴史小説を動かすものは何か
 今井克佳

1 幕末小説の構想
2 物語の構成と力点
3 言葉を継ぐものとしての慎太郎
4 無私の青年としての慎太郎
5 「傀儡」の登場 ──「おふう」と「猫の半兵衛」
6 作者と現代の「傀儡」たち
7 歴史に介入するものとしての「傀儡」
8 「夢」の終わり

 

第三章  あの空は青いか〈福田善之の21世紀〉
 佐々木治己

前場 ドラマツルギーは体制である
ドラマもいろいろ/ドラマと感情/ドラマと対立/ドラマと天皇制/あの空は青いか

間狂言 ドラマの向こうの演劇
鞍馬天狗の演劇性

後場 夢、福田善之の
なんにもないから なんだってありさ/戯曲「虎よ、虎よ」/夢、福田善之の

 

第四章  「極私的福田善之論 若き俳優たちに聞く」 
 越光照文

一 はじめに

二 劇作家、演出家、教育者としての福田善之について
劇作家福田善之との出会いから/演出家としての福田善之『オッペケぺ』を中心として/サルメカンパニーを結成して/福田善之から学んだこと

三 おわりに

資料 福田善之作品年譜
 牛田さとみ

 


執筆者

井上理惠 (いのうえ よしえ) 桐朋学園芸術短期大学名誉教授。日本演劇学会理事・日本文藝家協会会員。

安宅りさ子 (あたか りさこ) 桐朋学園芸術短期大学名誉教授。日本演劇学会会員。

今井克佳 (いまい かつよし) 東洋学園大学教授。日本演劇学会会員、AICT(国際演劇評論家協会日本センター)会員。

佐々木治己 (ささき かつみ) 詩人、劇作家、ドラマトゥルグ。著書:『お前は俺を殺した』共和国など。

越光照文 (こしみつ てるふみ) 桐朋学園芸術短期大学学長。演出家。劇団青年座文芸部所属、日本演出者協会会員、ATEC理事。

牛田さとみ (うしだ さとみ) イギリス児童文学研究、ドラマトゥルグ、劇作家、制作。


2024年2月6日発売
福田善之の世界
井上理惠/編著
定価=本体3500円+税 ISBN978-4-7845-1168-6 A5判上製368頁


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