|刊行情報 |神戸 近代都市の過去・現在・未来 ─災害と人口減少都市から持続可能な幸福都市へ─  池田清/著

2020/02/21 『週刊金曜日』で書評掲載されました。粟野仁雄氏評「「おしゃれ」で「モダン」な神戸市の虚と実」
2020/01/05 神戸新聞 ひょうご選書書評「「大神戸主義」から転換の道筋」(評者・木村信行)掲載されました。

「モダン都市」では行き詰まる。
神戸市の未来像を提言。

カバー画◆Y.コジマ『こうべ港眺望』(1938年)神戸市立博物館蔵
カバー画◆Y.コジマ『こうべ港眺望』(1938年)神戸市立博物館蔵

本書概要

「モダン、ハイカラ」の近代都市神戸。しかし意外にも神戸市の「幸福度」は大都市の中で低いランクです。なぜか。本書は、軍事港湾都市から経済都市へと歩んだ都市づくりの問題を検証し、新たな神戸像「持続可能な幸福都市」を提言するものです。 〈近代都市論、神戸の歴史〉

いけだ・きよし 経済学博士(京都大学)。役所勤務を経て北九州市立大学法学部教授、下関市立大学経済学部教授、神戸松蔭女子学院大学教授を歴任。専門は都市政策、地方自治。著書『災害資本主義と復興災害』水曜社ほか。

 


序文(抜粋)

本書の課題意識は、神戸の都市形成に決定的な影響を及ぼした近代という時代が、人類の存続そのものが危ぶまれるような深刻な事態を呼び起こしているという問題です。それは、第1に、人類を死滅させかねない危険性をもっている核(核戦争、核テロや原発)の問題。第2に、急速な地球温暖化(石炭、石油など化石燃料の大量使用)と気候変動などの環境問題。第3に、米国やロシア、中国など独裁主義的強大国の弱小国に対する覇権主義的支配と内戦や難民などの問題。第4に、資本主義の歪んだグローバル化による貧困と格差の拡大、失業や非正規雇用、長時間・過密労働などの経済問題。第5に、急速な人口減少と少子・高齢化などがもたらす生活と地域・都市問題。第6に、個人の自由を制約する性別役割分担(男は仕事、女は家庭)を基本とする「近代家父長制家族」の問題。第7に、利己的「個人主義」や強欲、フェイクの跋扈、厳しい生存競争とマイノリティーの差別や排除、そして人道、倫理の劣化がもたらす問題です。
これらの問題の背景に「西欧起源の近代世界システム」があります。それゆえ、現代は、「近代世界システムに対する問い直しの思考」が求められています。日本における近代の始まりとなった明治維新は、「西欧起源の近代世界システム」の一環に日本が組み込まれることを意味していました。本書も「近代世界システムを問い直す」視点から、近代という時代が、神戸の都市形成にもたらした問題と、それを克服する手がかりを見出すことを課題としています。

*本書の構成

本書は3部構成で、第1部(第1章から第4章)では、神戸の近代化、文明化が、日本の「周辺」から「中心」の位置へ駆け上がり、「大神戸」をめざす都市づくりであったことを検証しました。自然の良港を有する神戸は、急速な近代化の過程で「軍事港湾都市」へ成長していきます。それは、近代都市神戸が、西南戦争や日清・日露戦争、第一次世界大戦などを経るなかで、欧米の「植民都市」から「皇国都市」へ変貌していくことでした。同時にそれは、神戸市民の貧困化と格差を拡大し、人権や民主主義が反故にされる過程でもあったのです。
第2部(第5章から第8章)では、戦後の神戸市政と都市経営の検証を行いました。1970─90年代にかけて都市経営で名を馳せた神戸市は、戦後の日本の都市史のなかで、最も高い評価を受けた自治体であり、全国の都市が見習うべき自治体でした。その源流は、第一次世界大戦時の神戸の都市計画構想で提起された「大神戸構想・大神戸の経営」と、戦前の植民地満州の都市計画やダム開発や植民地朝鮮の釜山港開発にありました。この「大神戸構想・大神戸の経営」は、戦災復興計画と神戸市総合基本計画(1965年)に継承されていきます。それは、大都市官僚制のもとに住民団体や労働組合などを上から統合し、戦後の憲法や教育基本法、社会教育法で謳われた住民自治や教育自治を軽視する過程でもありました。
第3部(第9章、10章)では、これからの神戸の都市づくりは、かつてたどった「軍事港湾都市」や「経済都市」の方向ではなく、市民の「学び合い育ちあい助け合い信頼し合う」学習都市による「平和・文化・環境都市」の方向にあることを検証しました。神戸市は、核兵器を積載した艦艇の神戸港入港を拒否する、いわゆる非核「神戸方式」をつくった都市です。この方式を全国に広めると同時に、2015年の安全保障法制を廃止する取り組みが求められます。なぜなら今回の安保法制は、非核「神戸方式」を無効化し、いままで政府が憲法違反としてきた集団的自衛権を行使し、戦闘地域での米軍を支援できるからです。


本書構成

第1部(過去) 「軍事港湾都市」神戸 -「植民都市」と「皇国都市」-

第1章 近代日本と神戸の歴史的地政的位置

第2章 近代的「植民都市」神戸 -大兵庫県の誕生と神戸居留地-

第3章 市区改正(都市計画)と市民の貧困化

第4章 軍事港湾都市神戸と軍需産業

第2部(現在) 「経済都市」神戸 -神戸市政と都市経営の検証-

第5章 神戸市都市経営の源流 -「大神戸の経営」と植民地型都市開発-

第6章 宮崎辰雄神戸市政の検証(1) -神戸市都市経営と都市社会主義-

第7章 宮崎辰雄神戸市政の検証(2) -コミュニティ政策と労務管理-

第8章 阪神大水害復興と戦災復興、阪神・淡路大震災復興

第3部(未来) 「平和・文化・環境都市」神戸 -持続可能な幸福都市へ-

第9章 非核「神戸方式」と安全保障法制

第10 章 人口減少時代と持続可能な幸福都市

終 章 神戸の都市イメージと多様性

A5判並製272頁 定価=本体2400円+税 ISBN978-4-7845-1574-5
2019年9月発売 社会評論社


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